Q&Aサイトとか掲示板で、よく間違った回答をしている人を見かけて気になるのが、映像や音声のコーデックに関する質疑についてだ。

例えば、デジタル放送は、MPEG2-TSで放送されているが、BDレコーダなどで、それを高ビットレートのH.264/AVCコーデックに変換して録画した方が、画質が良くなると思っている人がいる。

Radikoは、48kbpsのHE-AACで圧縮されて配信されているが、非圧縮のWAVに変換すれば音質が良くなるとか、256kbpsのMP3で録音した方が音質が良くなる、などと思っている人がいる。

どちらも明らかな間違いなのだが、困ったことに、質問に回答する側に、こうした間違った知識に基づくアドバイスを、自信満々で行う人が意外に多いのだ。

【以下の解説は、分かっている人には常識だし、そうした方は読むだけ時間の無駄だと思うので、読み飛ばしてください】

もちろん、同じ非圧縮のソースを、同じビットレートのMPEG2とH.264/AVCでエンコードすれば、後から作られた高効率のH.264/AVCの方が明らかに画質がいい。
一方、Radiko配信で使用されているHE-AACは、もともとMP3より効率のいいAACを、特に高音域のコーディングを工夫することで、さらに低ビットレートで高音質を実現したAACの拡張コーデックで、48kbpsでも、96-128kbpsのMP3相当の音質を実現できると言われている。
したがって、同じ非圧縮の音声ソースを圧縮するとして、48kbpsのHE-AACと、256kbpsのMP3だったら、さすがにMP3の方が音質がいいだろう。

しかし、元のソースが、MPEG2-TSで送られている場合、それをAVC変換して録画しても、それをそのまま無変換で録画したオリジナルのMPEG2に勝てるはずがない。
同様に、元のソースがHE-AACで送られている場合に、それをいくら高いビットレートのMP3に変換して録音しても、オリジナルのHE-AACに勝てるはずがない。
H.264/AVCやMP3といったコーデックは、基本、不可逆変換で、圧縮すれば必ず、オリジナルから劣化するからだ。

別の分かりやすい例として、写真を例にとり説明しよう。
例えば、JPEGという不可逆変換のコーデックがある。JPEG2000という、やはりJPEGよりは圧縮率の高い不可逆変換のコーデックがある。

非圧縮の画像をJPEG/JPEG2000で圧縮すれば、ファイルサイズは大幅に減るが、再度伸長したときに、画質はわずかに、しかし、必ずオリジナルより劣化する。そして、同等の画質なら、JPEGよりJPEG2000の方がファイルサイズは小さくできるし、同じファイルサイズなら、JPEGよりJPEG2000の方が劣化が少ない(が、原理的にゼロではない)。

たとえば、非圧縮のBMPファイルの写真があったとして、それをJPEG/JPEG2000で圧縮したら、再度伸張しても、その画質は元のBMPファイルを上回ることはないことはまず理解してもらえると思う。
次に、その圧縮したJPEGファイルを伸張したBMPファイルを、再度JPEGで圧縮したら、元のJPEGファイルで劣化したところに、さらに劣化が加わり、画質はさらに劣化する。
したがって、JPEGファイルに対し、繰り返しJPEG圧縮を繰り返すと、画質は繰り返すたびに劣化がひどくなってゆく。

さて、非圧縮のBMPファイルの写真があったとしたら、同程度の画質なら、JPEGよりJPEG2000の方が圧倒的にファイルサイズが小さくなる。

でも、元がJPEGで圧縮された写真があったとしよう。それを、伸長して非圧縮のBMPファイルに変換した後、JPEG2000で圧縮したとしても、元のJPEGファイルより画質が上回ることはありえないことがわかると思う。
いくらJPEG2000が、JPEGを上回る優れたコーデックでも、基本、不可逆変換なので、オリジナルのJPEGファイルの画質を上回ることは原理的にありえないからだ。

デジタル放送やRadikoを録画、録音する場合も同じだ。

デジタル放送やRadikoを録画、録音する場合、一番音質劣化が少ないのは、デジタル放送であれば、MPEG2-TSのままキャプチャーするモード(レコーダによりDRとかTSと呼ばれるモード)で録画することであり、Radikoであれば、HE-AACのままキャプチャーするモード(RadikaであればM4A形式)で録音することである。

それ以外のコーデックに変換したら、そのコーデックが不可逆コーデックであれば、たとえそどれだけ優秀でも、オリジナルよりよくなることは原理的にありえない。

また、Radikoを非圧縮のWAVで保存することが、音質上最もいいと思っている人もいるが、元が48kbpsのHE-AACでしかないので、それをデコードしてWAVに変換しても、48kbpsのAAC-LCの音質は維持されることはあっても、決して、元よりよくなったりはしない。
しかも、同じ音質なのに、必要な容量は何桁も増えるので、わざわざWAVに変換して保存する意義はない。単なる自己満足の世界と言っていい。
さらに言うなら、今後、HE-AACのデコーダソフトが改良され、さらに再生音質がよくなる可能性さえある。そうなったら、現行のソフトでHE-AACから変換したWAVファイルより、将来出てきるデコーダソフトによるHE-AACの再生/変換音質が上回るのは間違いない。
なので、現時点で、わざわざRadikoをWAV形式に変換して保存する意味はないと断言できる。

もちろん、HE-AACのM4A形式は、まったく再生できない機器や、再生できてもHE部分の復号ができず高音質で再生できない環境も多いため、汎用性の高いMP3などのファイルに変換しておきたいというニーズはよく分かる。

私も、Radikoサーバでは、RadikaでM4A形式で予約録音した後、バックグラウンドで一日1回(朝5時~)MP3への変換処理を走らせて、常に録音がMP3ファイルでも使えるようにしている。
少なくとも、容量を食いすぎるWAV形式で保存するよりは、M4AとMP3の両方で保存する方が容量も食わないし、どんな再生環境にも対応できて、使い勝手も圧倒的にいい。

我が家のRadikoサーバは、HDDの容量も限りがあるので、半年に1度ほど、ライブラリのバックアップを取って古いファイルを一括削除しているが、その際、ライブラリのバックアップは、オリジナルのM4Aファイルのみを別HDDに差分バックアップしている。
MP3は、いつでもオリジナルのM4Aファイルから変換できるし、M4Pファイルだけ保存しておけば、音質的にもベストで、容量もMP3で保存するより半分以下で済み、経済的だからだ。

ちなみに、デジタル放送の録画も、見るだけの番組は基本、AVC変換して録画しているが、永久保存したい映画などは、基本的に、無変換のDRモードで録画し、CMをカット編集して、BD-RやiVDR-Sに保存している。
それが画質上ベストだし、解説などのデータ放送がついている場合、それもそのまま保存される点も便利だからだ。

もちろん、人が放送をどんな形式で録画、録音しようが、個人の勝手なので、それを強制する気はない。
ただし、誤った知識に基づく信念は、自分の中にとどめてほしい。
他人に、明らかに技術的に間違ったアドバイスをするのだけは、やめた方がいいと思う。

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